「育てても辞めていくのに、人材育成をする意味があるのか」。「当社は安価な労働力を求めてベトナムに進出をしたので、ベトナム人材への投資は想定していない」。ベトナム人材の育成について、ままいただくコメントです。

年々物価や人件費が上昇するベトナムにては、何もしなければ年々利益が蝕まれていきます。物価や人件費の上昇が許容値に至れば拠点を移すのも一つの対応ですが、そうでなければ生産性の向上は避けて通れない課題となります。

「育てても辞めていくのに、人材育成をする意味があるのか」。「当社は安価な労働力を求めてベトナムに進出をしたので、ベトナム人材への投資は想定していない」。ベトナム人材の育成について、ままいただくコメントです。

年々物価や人件費が上昇するベトナムにては、何もしなければ年々利益が蝕まれていきます。物価や人件費の上昇が許容値に至れば拠点を移すのも一つの対応ですが、そうでなければ生産性の向上は避けて通れない課題となります。

 

  • 従業員に経営参加を期待するかが、人材育成要否の分かれ道

ベトナム拠点のアメリカ人経営者からは「人材を育成するなどと考えるのはナンセンス。必要な人材は労働市場から調達する」とのコメントをいただいたことがあります。アメリカのファーストフッドショップのようにマニュアル化を徹底し、生産性の向上などの経営課題は経営陣がトップダウンで進めるのであれば、現場はオペレーションに集中できますから、既定の職務を果たすだけの人材は労働市場からの調達も可能かもしれません。

プロ経営者といった職業さえ存在するアメリカの労働環境と異なり、日本では会社内部からの人材登用や従業員に主体的に経営への参画を期待するのが一般的です。しかしなら日本的な内部登用や従業員の経営参画といった人材経営の仕方は世界的には一般的ではなく、ベトナムにても自らが経営参画の意識を持ち、生産性の向上に取り組む人材を労働市場から探すことは非常に困難です。日本企業経験者が韓国や中国企業から引き抜かれがちな所以ともなりますが、労働市場にて用意されていないものは、採用後に自社内にて身に付けさせざるを得ません。

ベトナム人材を育成するか否かとの問いは、従業員に主体的な生産性向上を期待するか、はたまた従業員には日常業務のみを期待し、経営陣が生産性向上の施策推進を手掛けるのかとの問いとなるとも言えましょう。

 

  • 人材投資ではなく、人材を育てる仕組みに投資する

しかしながら、高い離職率のベトナムにて課題となるのは、せっかく時間やお金を使って知識やスキルを注ぎこんだ将来が期待される従業員もあっけなく会社を去り、せっかくの知識やスキルが会社に根付くこともなく雲散霧消してしまうことでしょう。

終身雇用が前提とならないベトナムの労働環境にては、アメリカ的なマニュアル経営にも学ぶべきところがあります。海外進出経営の豊富な会社にては、拠点展開のフォーマットが用意されているケースが見られます。立ち上げ時は挨拶や5Sなどの風土作り、事業の運営安定に向けては改善やQC活動の展開、事業の革新期には方針展開など、拠点設立後の年数に応じて展開する活動が規定化されています。こうした会社にても人材育成は進められていますが、社内研修は5Sや改善などの社内活動の紹介や説明が中心となり、実際の5S力や改善力は社内の制度を通じて磨かれる体制が構築・運営されています。

弊社の公開講座に従業員を参加させる会社も、当の従業員を育成するのみならず、参加した従業員が会社にて学習した内容を展開することを期待されていると思います。弊社が社内講座を実施する際にも、参加した従業員を育成するのみならず、学習した内容を社内の標準として定着化させるよう促します。

特定の個人に期待した育成投資は、確かにベトナムでは水泡に帰すリスクもかなり高くなります。個別の人材の育成にお金や時間を使うという発想ではなく、該当の人材を通じて、はたまた経営陣が率先して、人材を育てる仕組みつくりを進め、仕事を通じて人材が育つ環境を構築されることをお勧めします。

 

  • 1人3役の人材を育てる仕組みつくり

各従業員は1人3役を担う、と謳っている会社もあります。とかく日々の生産・販売に汲々としてしまいがちですが、日々の生産や販売はできて当たり前との発想のもと、7割の精力で日々の活動は完遂し、3割の精力は明日に向けた仕事に割けるのが理想です。

品質管理など、より良い成果を生むための結果つくりの活動、挨拶や5Sなど協働で成果を生む風土を作る職場つくりの活動、QC活動やTPMなどの組織力を高める仕組みつくりの活動、新技術・製品開発に向けたビジネスつくりに向けた活動など、全従業員が目前で必要とされる仕事に携わるのみならず、明日を作るための活動に参加することによって、生産性の向上をはじめとした企業体質の強化とともに、それを担う人材の育成が進められます。

 

将来を期待されるマネージャが辞めてしまったが、あきらめずに次の世代の育成にあたる。大切なことですが、これまでにかけた労力を考えると気も滅入りがちです。キーパーソンの突然の離職にも顔を青ざめぬよう、また着々と経営人材の現地化を進める上でも、コア人材が仕事を通じて輩出される仕組みを整えたいものです。