ほとんどの日本企業の経営理念や企業文化は創業者が創業期に得た成功・失敗体験をもとに作られ、理念や文化に影響を受けた人たちによって引き継がれ、企業としての個性や独自の経営判断につながっていきます。

2006年のWTO加盟を契機に多くの日本企業が進出を進めたベトナムにおいては、多くの企業がまだ創業10年前後にて、まだまだ立ち上げ期の只中、まさに企業文化が作られようとしている時期にあります。

ほとんどの日本企業の経営理念や企業文化は創業者が創業期に得た成功・失敗体験をもとに作られ、理念や文化に影響を受けた人たちによって引き継がれ、企業としての個性や独自の経営判断につながっていきます。

2006年のWTO加盟を契機に多くの日本企業が進出を進めたベトナムにおいては、多くの企業がまだ創業10年前後にて、まだまだ立ち上げ期の只中、まさに企業文化が作られようとしている時期にあります。

 

  • 現法経営者が変われば、方針も変わる

現法の経営者が変わる度に、拠点の経営方針が変わる。よく耳にする現法経営の課題です。生産・販売する製商品、生産・販売方法は変わるはずもありませんが、これまで優秀と称されていた従業員が評価されなくなる、説明なく品質の確保からコスト削減へ経営の力点が変わるなど。4~5年毎には交替する現法トップに従業員も慣れたもので、不平を漏らすことなく、右向け右で異なる方針への対応を進めます。現法経営者の交代は筆者の会社にとっても大きな分岐点となります。継続していた人材育成が停止したり、大きく方向転換することもよくある事です。これまで教育を受けてきた従業員はどのように思うのだろうと、やや心配にもなります。

駐在員の交代は赴任期間の制約もあり、致し方のないことですが、拠点の創業期において定期的に訪れる方針変更が、期待される経営理念の浸透や企業文化の醸成に悪影響を与えないかが懸念されます。

 

  • 拠点育成の方針が駐在員の削減だけとなっていませんか?

安価で豊富な労働力を売りにしたベトナムにても、途上国にありがちな高い昇給意欲や賃金水準の高騰により、駐在員数削減への圧力がかかります。このためか、多くの企業では駐在員の削減数が現地化の創業年数に応じたマイルストーンになっているように窺えます。一方で、途上国にありがちな人材の流動性の高さは、中途採用による即戦力人材の確保に現法を向かわせ、社歴の浅い管理者が現法の中枢を担う光景もよく見られます。また、社歴の長い管理者は定期的な方針の変更にも長け、現場を押さえている一方で、不正の元締めとなっているケースもまま見られます。

こうした業績面のみに注視した現法経営が創業期に続くことにより、外観的には正常に生産・販売が継続でき、経営目標を達成できているように見えても、あたかも委託生産・販売先のように個性や価値観が見えない機能体としての現法ができてしまうことが懸念されます。

現法を委託生産・販売先として位置付け、経営の現地化・自立化を期待しないのであれば、経済合理性を追求する現法経営も理解できます。しかしながら、理念や価値観の共有を進めていないにも拘わらず、経営の現地化を進めると、実質的な会社の乗っ取りや不正の温床作りなど、再構築に相当の労力を要するしっぺ返しに会う可能性も高まります。

 

  • 拠点育成のロードマップを描き、バトンをつなぐ

文化や価値観、経済・社会の発展段階の異なるベトナムでは、食事の仕方やトイレの使い方から教育を開始しなければならない状況も見られます。価値観の共有・移転を行わなければ、個人毎に役割・責任を詳細に区分、全ての意思決定は経営トップが行い、従業員はトップの指示に盲目的に従う、各人の立場を利用して私利私欲を満たす、ベトナム流の価値観が会社の文化・価値観となります。

組織への帰属意識、協働意識、遵法意識、自主・自発性のない人材の基では、製商品の生産・販売はできても永続する企業の経営は任せられません。

会社文化の醸成に向けては、1.挨拶や手順・基準の遵守に始まる価値観の浸透、2.5Sや報連相、PDCAといった仕事の仕方の共有、3.問題解決や方針展開といった組織・経営視点に立った客観的な分析・意思決定力の育成を段階的に進め、従業員が入れ替わっても経営の質が変わらない風土を構築していくことが期待されます。

会社育成の長期的なロードマップを描き、各駐在員がロードマップに沿って現法を育成、バトンタッチを続けて会社の理念・文化構築を進めていきたいものです。

 

「次の社長が赴任しても一貫した経営ができるよう、社長と対峙して議論できるマネージャを育てたい」。既に帰任された、ある現法経営者の言葉です。ベトナム人マネージャを通じて経営の一貫性を維持するのも次善策ですが、各赴任者が現法育成のロードマップを共有し、ベトナム人材との協働のもと、バトンをつないで現法育成を進めていくのが理想でしょう。