人事評価結果の活用場面で、従業員が最も注目し、また経営陣の頭を痛めるのが評価昇給の判断でしょう。従業員の昇給意欲や巷から聞こえる昇給率を睨みながら、どのくらいの金額であれば、従業員から不満の声が上がらないか、毎年、匙加減を測っていることと察します。ともすれば、従業員からの昇給圧力に押されて、成り行きでの昇給判断ともなりがちです。賃金モデルに沿った先読みのできる昇給判断を進めましょう。

人事評価結果の活用場面で、従業員が最も注目し、また経営陣の頭を痛めるのが評価昇給の判断でしょう。従業員の昇給意欲や巷から聞こえる昇給率を睨みながら、どのくらいの金額であれば、従業員から不満の声が上がらないか、毎年、匙加減を測っていることと察します。ともすれば、従業員からの昇給圧力に押されて、成り行きでの昇給判断ともなりがちです。賃金モデルに沿った先読みのできる昇給判断を進めましょう。

 

  • 賃金モデルを策定し、計画的・戦略的に昇給判断を行いましょう

人材経営の賃金の回にても触れましたが、賃金制度は賃金モデルが柱となります。

賃金モデルの策定は、JETRO等や近隣企業の職位別賃金水準情報の入手から始まります。次いで、賃金水準のデータをもとに、各職位別の初任賃金・賃金上限を策定します。そして、各職位毎への昇進最短・標準・最長年数を定めれば、高評価・平均評価・低評価毎の年次昇給額が定まります。

より昇進に重きを置き、従業員を昇進に動機づける場合は、職位の賃金上限と上位職位の初任賃金に差を設けると賃金上限に至っている場合でも昇進時のボーナスが捻出され、従業員を昇進に向けて動機づけられます。しかしながら、各職位の賃金水準を高めに設定しない限り、各職位の初任賃金と賃金上限の差は縮まりますので、各年次の昇給額は低く収まり、昇進が期待される従業員以外は厚遇しない制度となります。降格や異動に備えて、管理職の賃金の一部を役職手当として基本給と切り離す場合は、役職手当相当分が職位間の賃金上限・初任賃金の差分となります。

一方、職位への滞留年数を伸ばすためなど、賃金上限を上位職位の初任賃金を上回って設定する場合があります。滞留者の賃金が昇進間もない従業員の賃金を上回る場合が生じ、従業員間の不平を呼ぶ恐れが出てきます。

その他の手当ては近隣企業との人材獲得競争上設定せざるを得ない場合が多いと思いますが、一度付与すると廃止するのは困難となりますので、最小にとどめたいものです。語学や資格等の手当ては、可能な限り一時金として設定します。

このように賃金モデルを策定しておけば、賃金水準の上昇を除いて、予定する体制に応じた賃金総額の見通しが立てられるようになります。

 

  • 賃金水準の変動はベースアップで対応

賃金モデルに沿った見通しの立つ昇給運営に向けて、各年の賃金水準の変化は評価昇給とは別のベースアップで対応することをお勧めします。最低賃金の変更や物価の変動により生じる賃金水準の変動は前年と当年に得られた職位別賃金水準の差分に直近の物価や労働需給動向の状況を加味して策定します。策定されたベースアップ額は各従業員の基本給または物価調整手当等にて加算し、また賃金モデルの各職位別初任・上限賃金に加算します。賃金水準の変動は率で表されることが多いですが、上位職位となるほど変動率は縮小する傾向にあり、ベースアップ額は全従業員一律の同額として策定することが望ましいです。

このように賃金水準の変動を一律同額のベースアップにて対応することで、賃金モデルは、その全体が上下動するまま維持されます。賃金モデルを一定に保つことにより、設計時のままの期待昇進年数、ひいては評価昇給が維持され、将来の賃金水準の変動見込みを加えれば、賃金総額の将来の見通しが容易となります。

なお、賃金モデルに沿った制度運用を進めるうえでも、昇給は率ではなく、額で定めることをお勧めします。昇給額で定めると、毎年見直しが必要となり面倒との声もありますが、これはベースアップと評価昇給を分けていないが故に生じる課題です。率で昇給を定める場合には、同一評価であっても昇給前の給与額により昇給額が異なるため、従業員からの不平の声を呼ぶとともに、賃金モデルに沿った運営を困難にします。

 

  • 賞与は各従業員の業績貢献に応じて付与

法令では規程されていませんが、ベトナムでは、従業員の旧正月祝いへの補助として、1か月分の賞与を旧正月前に支払うことが習慣化しています。

日本では、賞与にかかる所得税は月給にかかる所得税よりも低くなるのが一般的なため、年間の賃金支給額のうち、賞与分を厚めに振り分ける場合もありますが、ベトナムでは賞与を含めた年間所得で所得税額を算出するため、所得税の調整目的で賞与を活用する意味はありません。ベトナムで賞与を活用する際の意味をどうするかは、一考の余地があります。

従業員の勤続を期待して、賞与を厚めに支払う会社もありますが、旧正月後に離職が集中するなど、デメリットも見られます。一方で、賞与原資を各月賃金に回すと、いつ離職するか読めないリスクは生じますが、採用上の優位は得られると思います。また、会社業績に応じて賞与を支給するという会社もありますが、お勧めはできません。各従業員個人の貢献と直接結びつかない会社業績賞与は、既得権化しがちで、賞与月数が増えることは合っても減ることはない支給実態となりがちです。業績賞与は各従業員の事業貢献に応じた制度とすれば年次毎の増減への納得感が得られます。