従業員に自己評価をさせればA(よく出来た)だらけ。管理者に部下を評価させても評価が上振れ、好き嫌いで部下を評価、自身の指示に従わせるための道具として評価を使うなど、期末の人事評価は頭の痛い年中行事です。1年を振り返り、真摯な自己反省を期待したい人事評価ですが、あまりにインフレした評価結果を前に、社長が評価をやり直すという状況も、まま見られます。

 

  • 謙譲の美徳は日本特有の道徳観

「よく出来た」と褒められても、「いやあ、まだまだです」とへりくだって受け応えるのは日本特有の美徳でしょう。ベトナムにては「知らないのに、知っていると言う」「できないのに、できると答える」などの課題の声も聞かれますが、自身をより有能に見せようとする振る舞いは、むしろ世界的には一般的かも知れません。

弊社の研修講座にても、講座後のテストでのカンニングを防ぐのは至難の業です。テキストを開き・書き写す、スマホで撮ったスライドの写真を盗み見る、周りの受講生に答えを聞くなど、自身の理解を振り返るよりは、とりあえず好成績を得ることに意識が働くようです。

かくして、人事評価の自己評価は自身の威厳を表すように高く評価し、機嫌を損ねないように部下の評価にも甘くなります。評価結果の分布を標準として示す会社もありますが、各人が不満を示さないように評価をうまく振り分けることに終始してしまい、評価自体の意味をなさなくなります。

 

  • 人材育成に向けて達成度を評価する

一方で、弊社の研修講座にては、学習内容を実業務に活かすべく、受講後の行動変革を宣言する活動計画を作成してもらっていますが、受講生の全員が素直に自身の成長課題をあげてくれます。自身の課題を自覚していないということではなく、課題があることを持って、自身を低く評価しないで欲しいということかもしれません。

一般にも「人事評価」というと、その従業員個人の「出来不出来、合格・不合格」を判断するように捉えられがちです。当然ですが、「お前は出来が良くない」と評価されて気持ち良く思う従業員はいません。

適切な日本語訳がないのですが、欧米では人事評価はパフォーマンスレビューなどと言われます。従業員自身を評価するのではなく、その従業員が生んだ貢献度や目標・期待の達成度を評価する考え方です。人と成果を切り離し、また現状を肯定したうえで、更なる高みに到達した度合いと成長課題で評価することから、前向きな評価とも言えましょう。

最近では、ベトナムでも目標管理による評価が主流となりつつあります。目標管理を成果主義と結びつけて考えがちですが、成果のみならず、能力や態度についても、階層別の期待に沿った目標を打ち立てることで、目標や期待の達成度が評価できます。

従来の定型的・多軸的な評価にては、評価結果をありきとして、評価者・被評価者が、自身の評価基準の解釈を戦わせる評価となりがちです。個人毎に期待される成果・成長を明確にし、人材育成に向けた成長課題の識別に重きを置いた評価をすることで、肯定的・前向きな評価が行えます。

 

  • 人事評価のPDCAを回しましょう

もとより人事評価は、低い評価結果や期待分布に沿った評価結果を得ることが目的ではなく、全員が目標や期待を達成、成長課題を識別することを理想とすべきものです。

最近では「人事評価を廃止する」とうたう会社もでてきていますが、これは期末での評価を廃止、日々評価を行うという意味にて、評価を行わないということではありません。目標や期待の達成に向けては、期末での評価やフィードバックでは既に手遅れです。もとより期末での評価は日々の評価の総決算ですので、日々評価は行われているべきであり、また評価に基づき、日々指導を行うべきです。

人事評価の理想とする姿を目指して、期初に目標や期待をすり合わせ(P)、日々の業務の中で評価と指導を行い(D)、期末に日々の指導成果を総括(C)、次期の成長課題を識別する(A)、人事評価のPDCAを日常業務として回すことをお勧めします。

 

とかく管理者は、自身の目標達成や成果向上に向けて、部下をいかに活用するかに重点を置いた指示をするにとどまり、部下の育成課題の解消に向けた指導にいたれない状況が見られます。「良き管理者は良き評価者」とも言われますが、全ての管理者には評価力・育成力も磨き上げたいものです。