2007年のベトナムのWTO加盟を契機に外資系企業のベトナム進出が活発になってより10年を超え、安価で豊富な労働力が海外直接投資誘致の謳い文句だったベトナムも様相を変えてきています。これまでは雇用の創出を期待するベトナムと安価な労働力を求める日系企業との思惑が合致し、日本からの投資が順調に伸びましたが、今後も相思相愛の関係を続けるには、変わっていくベトナムの期待に応えていく必要があります。

 

  • 終わりを告げる、安価で豊富な労働力が売りのベトナム

政府機関・国営企業だけでは労働人口を吸収できず、人口ボーナス期にもあったベトナムは、海外からの直接投資と雇用の創出を期待して市場の門戸を開き、多くの日系企業が進出を果たしました。最盛期には9.5%超の経済成長、現在でも約6.5%の成長率を維持し、一人当たり国民所得は実質ベースで1990年比4.5倍超に至っています。

現在でも、まだタイ等に比して安価な最低賃金となっているベトナムですが、進出日系企業数では未だに約半数を占めるものの、特に安価な労働力を求める日系製造業のベトナム進出は落ち着きを見せています。むしろ、高まる大学進学熱により、現場作業者の求人が困難となり、生産性向上による少人化や設備投資による自動化を進める製造企業が増えています。

一方でハノイやホーチミンといった都市部では、既に一人当たりGDPも3,500ドルを超え、そうした中間層向けの飲食やサービス、流通といった業種の日系企業の進出が伸びています。

かつて世界の工場と言われた中国が、世界最大の一国市場と変貌したのと同様、その成長力に見劣りはするものの、ベトナムも徐々に変わってきています。

 

  • 変わりゆく、ベトナムの期待をつかむ

雇用さえあれば自然と経済が成長する人口ボーナス期は、ベトナムでは終えました。対外債務上限の対GDP比65%も既に上限に迫り、海外からの融資によるインフラ投資で経済を牽引する手は打ちにくくなっています。もとより、産業基盤の弱いベトナムは自国産業については慢性的な貿易赤字で、サムソンを筆頭とする外資系輸出型企業が貿易収支の黒字化を支えています。また、主たる歳入を原油を始めとする天然資源の輸出と関税収入に頼っていた財政は原油価格の降下と相次ぐ自由貿易協定で慢性的な赤字状況に陥っています。

本年より、「第4次産業革命の波に乗れ」といった発言がベトナム政府要人から聞かれることが多くなり、筆者は初めは、何を荒唐無稽なことを…と感じていましたが、徐々に意図が分かってきた気がします。要は、労働集約的な産業から高付加価値産業へシフトし、国際競争力のある製品を輸出、所得税や法人税を柱とした歳入構造に変わりたいとの指針を示している気がします。

既存の日系ベトナム法人を含め、これからベトナムに進出する日系企業には、ベトナム国内企業にとって、高付加価値事業の手本となり、またそのサプライチェーンに巻き込んでくれる役割への期待がうかがえます。

 

  • 存在を期待される企業を目指して

日本も同様ですが、ベトナムも全ての外資系企業に秋波を送っているわけではなく、ハイテクや研究開発など奨励投資先分野を定め、ベトナムの自立的な発展や国民の生活向上につながる分野への投資と技術移転を期待しています。

進出国の期待に応えることは、単に優遇税制等の恩恵に与るにとどまらず、進出国の庇護を受け、現地人材にとって、なくてはならない企業となることを意味します。ままベトナム投資・進出の話題の中で、日本や日本本社にとってのメリットの視点のみから議論がされる様子を目にします。ベトナムに根付き、ベトナムで長期永続する事業を進める上では、ベトナムに存在を期待される企業となることを目指したいものです。

 

第4次産業革命は、ベトナムのような低水準の所得国にはむしろ脅威となるとの理解が一般的かと思います。筆者も同感なのですが、一方でベトナムではAIやロボットなどの自動化機器の導入はいち早く進むのではとの憶測もあります。ベトナム企業の経営方法やベトナム人材の育成を通じて感じる所ですが、ベトナム人経営者は、ベトナム人材があてにならず、頼りにならないことを良く理解していると思えるためです。

ビングループの自動車・スマホ生産への進出、ベトテルのラオスやベル―といった海外展開など、ベトナムは日本のような民主主義国と異なる成長の道を歩む可能性があります。日本の常識にとらわれず、観察していきます。