外資参入規制の緩和より歴史の浅いベトナムにおいては、進出日系企業もまだまだ創業期の只中です。駐在員の皆さんには年次の事業目標達成に加えて、本社の経営理念・指針に沿って、現法の現地化・自立化に向けた会社の文化・風土作り、経営の土台作りが期待されます。

 

  • 赴任ミッションは明確ですか?

赴任の数週間前に辞令を受け取り、準備もままならずベトナムに赴任となった。といった声も、現実にはまま聞かれます。各年次の事業目標達成や新機種・サービスの導入など、事業成果に直接かかわるミッションはもとより、幹部候補の輩出や管理システムのレベルアップなど、長期の視点で現地化・自立化に向けた組織力向上につながるミッションも明示されているのが理想です。

また、品質管理体制の強化のミッションを負っているが、なかなかベトナム人の部下が主体性を持って動いてくれない...といった、ミッション達成に向けた課題認識の声も良く聞かれます。こうした課題はまさに克服すべき日越の文化の違いによる課題となります。一歩一歩課題を克服する中で、創業期ならではの会社風土作りに取り組んでいくのが、駐在員の役割となります。

 

  • 担当者としての役割、指導者としての役割、経営者としての役割?

会社の文化・風土、経営の土台作りに取り組まれる皆さんに、念頭に置いていただきたいのが、担当者として・指導者として・経営者としての3つの役割です。

  • 担当者としての役割

日頃パートナとして一緒に仕事に取り組むベトナム人の部下は、まさに技術移転を進めるべき相手となります。仕事の振分け・指示を行うにとどまらず、間違いを正す際は、なぜ間違いなのか、どうした進め方が良いのかなど、仕事を通じて仕事の価値観を伝えていくことが期待されます。日々の仕事はまさにOJTの機会となります。

  • 指導者としての役割

部下のベトナム人が先輩のベトナム人の背中を見て学ぶには、まだまだ背中の数が足りません。創業期においては必然的に先進国から来た日本人は上司であり、先生となります。一方で「育てても辞めていく」ベトナムにおいては、個人に肩入れした指導は、入れ込んでいた人材の突然の離職に梯子をはずされる思いを味わうことともなります。

お勧めするのは個人指導ではなく、手順・手続き・標準・基準を整備するなど、人が変わっても仕事の質が変わらない、仕事を通じて人が育つ、仕組作りとなります。交替する駐在員のバトンタッチを通じて蓄積された仕組みが会社の財産となり、組織力となります。

  • 経営者としての役割

日系企業はベトナムにおいては外資系企業です。ベトナム人従業員にとってはベトナム法人が所属先・会社の全てであり、本社から派遣された日本人駐在員は部課長であっても本社の意図を受けた現法の経営者との認識になります。従って、どのような部門・会社作りを進めていくのか、どのように成長発展を続けていくのか、ベトナム人従業員からは部門・会社の方針・指針表明が駐在員には期待されます。

一方でまだまだ担がれる神輿のないのがベトナム。方針を打ち立てるにとどまらず、自ら先陣を切って手を動かし、部下の手を引いていく率先垂範の行動力が期待されます。

 

  • 明日の仕事と今日の仕事

1年目は日々訪れる予想だにしなかった問題への驚きで過ぎ、2年目は繰り返される驚きに少しずつ慣れを覚え、3年目にしてエンジンがかかる。筆者も含め、そんな仕事生活をベトナムで味わっている方も多いのではと察します。しかしながら、こうした赴任期間の過ごし方をしていると、特に結果が将来に現れる風土作りや組織力の強化といったミッションは後回しになりがちとなり、赴任期間の後期に急ぎで取り組むということにもなりかねません。

「明日の仕事と今日の仕事」とも言いますが、今やらざるを得ない今日の仕事のみならず、将来に向けた明日の仕事にも日々少しずつ手を付けていきたいものです。「前の赴任先では実現できなかった理想の会社をベトナムで実現したい」。そんな話を既に帰任された現法経営者の方より伺いました。熱意のある経営者にはベトナム人材も寄り添いますし、現法の現地化・自立化もより早く進みます。駐在員の熱意とベトナム人材との協働が現地化・自立化の要となります。