顧客クレームへの対応や新製品の導入時など、部門間での会議で結論が出ずに、日本人管理者に判断を求める。よく伺う会議や議論におけるベトナム人材の課題です。

もとより値段をふっかけている土産物屋を除き、一般の商店では「嫌なら買うな」とでもいいたげな店主の交渉の余地のない態度を見れば、推して知るべしともいえる状況かと思います。

 

      □ 上意下達の意思決定がベトナム流

親族経営が中心のベトナムでは、経営者がすべての決断を下し、従業員は盲目的に指示に従うだけというのが一般的です。従業員は経営者に求められれば意見は言いますが、あくまで決めるのは経営者で、経営者の判断が気に入らなければ会社を辞めるか指示を無視するかです。ともすれば、上司ではあっても雇われの管理者には決定権もなく、もしくは経営者の判断で容易に決定が覆るため、従業員も管理者を飛び越して経営者の顔色をうかがいます。

また、市場経済が導入されて間もないせいでしょうか。先の商店主のように一般には交渉や妥協をするような習慣はなく、一方の提案に他方はYESまたはNOを返答する、合意に至らなければそれでおしまい。というのが通常の取引の仕方です。むしろ、交渉しようとすると「騙そうとしているのではないか」と嫌な顔をされます。

      □ 決め方を決める

上記のような状況から、ベトナムにおける対等な個人間での合意形成は、互いを慮り、着地点を見出そうとする日本的な集団的意思決定とは対極的、もしくは未知の世界ともなります。

このため、全当事者が納得できる案を自ら導けるようになるには、議論に参加する人たちの考え方や議論の仕方を一から教育、磨き上げていく必要が出てきます。

 

  • 議論の目的を明確にする

ベトナム人材のよくある未理解の一つは、議論の目的を明確にしていない点です。議論の目的を「議論すること」としたり、「対応案を選ぶ」とするなど、議論そのものが目的化、もしくは異なる意見のいずれかを選ぶ、と考えていたりします。

「顧客の満足を高める」など、議論の目的を、全当事者に共通する具体的な目的として定める必要があります。

  • 意見ではなく論点に注目する

先にあげたように、議論の場では各当事者の意見に賛成か反対かを述べるだけにとどまることが良く見られます。このため、議論の場が意見の押し付け合いになり、容易に決裂します。

新製品のテストのために「生産ラインを止めるか、止めないか」といった意見にとらわれるのではなく、意見の背景にある、「ラインを止めると残業が増える、至急のオーダが入っている」など論点に注目し、論点を解消するアイデアを生み出すことで合意に結び付ける議論の仕方を身に着ける必要があります。

  • アイデアは吟味するのではなく、積み上げる

一つアイデアがあると、ああでもないこうでもないと賛否の応酬が続くのもよく見る光景です。自身の考えに執着し他人の意見に耳を貸さないベトナム人材の最も克服が困難な課題かと思います。

他人のアイデアに耳を傾け、どうしたらより良いアイデアとなるか、アイデアを加え・積み上げる。それが理想ですが、なじむまでには努力と忍耐が必要です。

  • 議論のルールを定める

中には、自身に不利な議論には参加しない、結論が出ても従わない人もいます。

会議が招集された際には必ず参加すること、皆で決めた案には従うことなど、議論のルールを社内で定める必要がある場合もあります。

 

現地化・自立化に向けて、社員の主体的な意思決定を期待したいところですが、特に対等な個人間での合意形成はベトナムでは容易ではありません。議論する習慣も少ないことから、まずは「決め方を決める」ことから始めていく必要を感じます。