ミスを指摘すると、言い訳が止まらない。よく耳にするベトナム人材の課題です。また、問題の原因を問うと「作業者が注意をしていなかったため」「手順書に記載がなかったため」といった言い訳めいた分析結果を回答するケースも良く見られます。弊社の研修講座の中では、こうした間違いを指摘する際に「それは原因ではなく理由でしょう」とコメントします。すると、受講生は比較的すんなりと間違いを受け止めてくれるようです。

 

  • 理由と原因の違い

理由と原因の違いを説明せよと言われると難しいのですが、理由と原因が異なる意味合いの言葉であることは誰もが理解するところでしょう。ベトナム語でも理由(lý do)と原因(nguyên nhân)では異なる表現が用いられ、意味合いの違いは日本語の理由と原因の違いに似通っているようです。

そこで、あらためて理由と原因の違いを少し調べてみました。

辞書によれば、理由とは「物事がそうなった、また物事をそのように判断した根拠。わけ。子細。事情。」原因とは「ある物事や、ある状態・変化を引き起こすもとになること。また、その事柄。」とのことです。

辞書の文言を見るだけでは大きな違いは見られませんが、ひとつ着目すべきは、理由には「判断した根拠」が含まれることでしょう。「お腹が痛いので会社を休む」といったように、「お腹が痛い(理由)」状態を判断した結果、「会社を休む(行動)」といったように使われます。

次に英語で理由(Reason)と原因(Cause)の違いを調べてみると、わかりやすい説明がありました。“A cause is the one that produces the effect. On the other hand reason refers to a thought or a consideration in support of an opinion.(原因は結果を生み出す要因。理由は意見を正当化する考え)”。

ベトナム語では原因と理由の違いの説明は見つからず、辞書を見ると、理由(lý do)は“Điều nêu lên làm căn cứ để giải thích, dẫn chứng(意見の根拠や証明)、原因(nguyên nhân)は”Điều gây ra một kết quả hoặc làm xẩy ra một sự việc, một hiện tượng(結果や事象・現象を引き起こすもの)“となっており、日本語や英語と同様の意味合いの違いが見られます。

上記から問題解決などの仕事で多く用いられる理由と原因の違いは、理由が「主観的な説明」原因が「客観的な事実」とでもいえましょうか。

 

  • それは「理由」か「原因」かを問い、原因究明を促す

一般にもベトナム人材は日本人と同様に「理由」と「原因」の違いを理解しており、「それは原因ではなく理由だろう」と指摘するだけで、間違いに気づいてもらえる場面も多くあります。

本人が気づけない場合には、「手順書に記載がなかったから不良が生じた」などの原因分析結果は、「では、手順書に記載がなければ、必ず不良が起きるか?(他の人は手順書に記載がなくとも正しく作業ができている)」と確認すれば、それが原因ではなく理由であることが判明します。また、たまに「原因がたくさんあり、問題が解決できない」という声も良く聞きますが、これも正しくは「原因となる可能性がある要因が」たくさんあるであって、問題を“実際に”起こした原因がたくさんあるわけではないと説明すれば理解できるかと思います。

自身の分析結果が原因ではなく理由であることが理解されて、次の課題は真の原因探しですが、これが容易ではありません。以前の記事にても記載しましたが、「さて、どうして問題が生じたのか」と考えても答えが出てきません。多くの場合、実際に問題が生じた状況や作業者の作業内容などの実態を知らない場合が多いためです。「分析」というと高度な能力が求められるように思われがちですが、やはり大切なのは「現地・現物・現実」なのでしょう。