この原稿を書いているのは12月で、まだベトナムの旧正月までは2ヶ月ほどありますが、本稿が皆さんの目に触れる頃には、例年であれば街角に交通警察が目に付く季節になっているのではと思います。

年末の交通安全運動かと思いきや、当地にお住まいの方はご承知のとおり、正月前の小遣い稼ぎの取締りです。

 

□賄賂習慣はあります

ベトナムに新たに進出をされる会社の方々の一つの心配事項は「賄賂習慣」ではないかと思います。

確かに、賄賂は一般的な慣習として、人と人とのやりとりの至る所に存在します。

  • お礼としての賄賂

少し前の日本でもお中元やお歳暮など、時候の挨拶代わりやお礼に物を贈る習慣はありました。

ベトナムでも、おすそ分けやお礼を贈る習慣はあり、筆者も近所の方から果物のおすそ分けをもらったり、訪問先のベトナム企業から接待を受けるということは良くあります。今でこそ日本では疎まれますが、会社に採用してくれた際や取引をしてくれたお礼などで現金が流通することは、当たり前にあります。

  • 煩わしい手続きを回避するための賄賂

杓子定規なベトナムでは特に役所の手続きなどに際しては、担当者の独自の解釈で書類などの妥当性が判断され、わずかな不備や不整合を見逃してくれないことが良くあります。取り寄せた公式書類の不備などを指摘された日にはにっちもさっちもいかないため、賄賂等の手段に寄らざるを得ない場面もあります。

また、交通警察に捕まった際の賄賂金額などは違反金額よりも安く設定されており、わざわざ面倒な手続きを経るより賄賂で済ませたほうが警察官・違反者ともに都合が良かったりもします。

  • 生活補助としての賄賂

ベトナムでは公務員と民間企業の最低賃金は別に設定されており、2015年12月時点でわずか115万ドンと民間企業の半分以下です。また、政府の財政難からしばしば最低賃金の見直しも後倒しとなり、2016年も民間企業より遅れて5月1日より5.2%の引き上げとなるようです。

幾ら雇用の保証があるからといって、公務員が薄給に甘んじるわけもなく、当然のことながら副収入を求めることになります。先の手続き回避のための賄賂も収入源ですが、教師が時間外に有料で補習を行ったり、病院の診察順を早めるために看護婦が手数料を受け取ったりと、生活費稼ぎのための賄賂も存在します。
(先生の日に花をもらった先生が生徒に、「花ではなく現金を持って来い」と言ったとかで、社会問題になったこともありますが)

  • 私腹を肥やすための賄賂

日本のODA関連でも取りざたされたタイプの賄賂ですが、筆者もベトナム政府がらみの案件で監督庁に電話で問い合わせた際に、「xx万ドルを出せば案件を御社が受託できるようにする」と電話口で言われたことがあります。

公務員の賃金が低い一方で、役所などを訪ねると年齢の割りに身なりが整い高級な腕時計や高級車を乗り回している役人に出会うこともままあります。

 

□賄賂との決別宣言と周知徹底

採用の際に応募者からお金をもらうのはいかがなものと思いますが、旧正月時に取引先から送られてくるお歳暮など、一般的な贈り物についてはそこまで目くじらを立てる必要はないのかも知れません。

しかしながら、公務員ばりに収入補助のため、または私腹を肥やすための賄賂を社内に持ち込まれると、社内に賄賂を中心とした別の組織が立ち上がることになります。

日系企業でも、日本人から最も信頼を得ていた女性幹部が実は親玉で、掃除のおばちゃんに至るまでの社内賄賂ネットワークを築いていた、といったケースもあります。

一般には賄賂を要求するような行為はベトナム人も好むところではありませんので、「賄賂は求めない、受け取らない」といった宣言と姿勢を明確にすれば、大半の人は賄賂に手を出すようなことはありません。

加えて、採用などの場面では2重に審査をかけるとか、購買の担当者は定期的に交代するといった予防措置は賄賂決別の姿勢を見せる手段としては有効です。

しかしながら、経理が支払いを遅らせる/ 組合の委員長が食堂の業者選定を行う/ 親類のサプライヤに発注する/ 決まったタクシードライバーを呼ぶなど、賄賂の誘惑に駆られる場面は日常業務の至るところにあり、全てに目を光らせることは現実的には困難です。

平均的なベトナム人材は賄賂が一般化することで社内が荒れることを嫌います。こうした人たちが日本人管理者に耳打ちする機会を塞がないよう、賄賂からの決別宣言を行うとともに、幹部任せにせず、現場とのコミュニケーションを図ることが重要と思います。