筆者の本業はベトナム人材の育成となります。各種講座の開催後には、「従業員が“ムダムダ”と言い始めた」「受講後、早速社内会議を持ち活動を始めた」など、効果の芽生えを感じさせるうれしい便りを頂くこともあります。一方で、社内研修の依頼を受けて実施するも、研修の実施自体が目的化してしまっているようで、活動につながらない残念なケースも見られます。

人材の育成は息の長い取り組みですが、一つ一つの育成活動が着実な成長につながる体制作りを進めたいものです。

 

  • 日々のOJTを軸に人材育成体制を整える

先輩の背中を見て技を学ぶのが日本での人材育成の王道ですが、ベトナムにても、従業員の成長に最も大きな影響を与えるのは経営陣を始めとした先輩、同僚の仕事ぶりとなります。仕事を成長の機会と捉える発想の少ないベトナムを含めた諸外国にては、指導者でもある赴任者は、意識をして背中を見せるとともに、直接指導していく必要があります。

人材育成の主要な手法に、仕事の実践を通じて育てるOJT(On the Job Training)、学習の場を提供するOFF-JT(Off the Job Training)、成長の機会を通じて伸ばすOCT(On the Chance Training)があります。こらの手法の中でも、手本となる先輩から個別に手ほどきが受けられ、また実践を通じて学べるOJTが最も効果が高く、人材育成の柱となります。OJTでは伝えきれない知識や指導者間の理解の共有をに向けてOFF-JTを実施、また日々の仕事の中では経験できない挑戦や危機体験をさせるためにOCTを実施するなど、他の手法はOJTを補うものとして整備すべきでしょう。

 

  • 指示ではなく、育てる指導力を磨く

仕事を成長の機会と捉える発想の少ないベトナムでは、仕事は単にそれを遂行し、対価としての給与を得るものとの考えにとどまりがちです。同様に、上司や先輩も部下の間違いを指摘し、修正を依頼するにとどまり、仕事を通じて部下を育てる指導には至らない状況がよく見られます。

はたまた日本にては、OJTという考え方は一般的に知られていますが、ともすれば仕事を与える・やらせるだけにとどまり、育成に向けた指導がなされていないケースも多いように聞こえてきます。指示にとどまらない指導には、費やす時間はもとより、指導する側の上司や先輩の指導力に大きく成否が依存します。

わざとミスを犯す従業員はほとんどいませんので、叱っても注意しても効果は持続しません。いつも購買している先だからと確認を直前に行い、在庫不足で納期に間に合わないといったミスは、リスク認識の漏れといった、行動判断時の考慮事項の不足や評価の甘さにより生じます。部下がどのような根拠・考えに基づき判断したのか聞き取り、少しずつ視点・視野を広げるような指導が求められます。また、作業の抜け漏れなどのうっかりミスに対しては、「今後は気を付けます」といった反省にとどまらず、どのようにミスが生じたのか状況を具体的に把握し、“うっかり”していてもミスにつながらないハード対策の指導が期待されます。

 

  • 人事制度の一環の中で、育成制度を策定する

人材育成制度を構築しようと思い立つと、つい先んじて手掛けてしまいそうになるのが、教育(OFF-JT)体制作りです。教育体制ができあがると育成制度が整ったような錯覚に陥りがちで、いつしか教育の実施が目的化してしまい、出席率を競うだけの成長につながらない教育となってしまいがちです。

もとより人事制度は将来の経営者候補を発掘し、育成する制度ですので、人材育成を進める制度そのものとも言えます。等級に描かれたありたい姿に向けて育成を進め、実践での成果を評価し、成長に報いる育成サイクルが回り、継続して将来が期待される人材が輩出されて、育成制度が整ったと言えます。等級で示される従業員のありたい姿と実態との乖離を見つめ、OJTを柱としてどのようなOFF-JT/OCTを加えることにより乖離が縮小されるか、また乖離の縮小が見える評価制度となっているか、従業員をありたい姿に向けて動機づける賃金/昇格制度となっているか、総合的な人事制度の観点から育成制度を策定していきたいものです。

 

まま耳にするのが、従業員満足度調査にて、従業員の研修制度への期待が高い結果が出たことから育成活動を立ち上げるケースです。注意したいのは、従業員と会社が期待する研修制度が異なることがよくあることです。会社が提供する研修を福利厚生の一環と捉えるベトナム人材も多く、ともすると語学のような資格に結びつく、転職に有利になる研修を期待しているケースもよくあります。福利厚生としての研修にも一考の余地はありますが、将来が期待される人材を育成する目的での育成活動とは分けて検討されてはと思います。