言葉はもとより生活・商習慣も想像以上に日本とは異なるベトナムへの進出には、ベトナム理解のための期間も必要となります。時間を買えとばかりに「現地のことは現地の人に」と、ベトナム人の嗜好に合わせた商品の改変、現地商流への参入、ベトナム人材の管理などを期待して、ベトナム企業と組んでのベトナム進出を志向するケースは少なくありません。

しかしながら、筆者も失敗体験をしましたが、ベトナムでの合弁の成功例は指折り数えるほどしかありません。

 

  • 日本での常識が通用しない、合弁事業の運営

    筆者は、ベトナムの発展に日本的経営を役立てて欲しいと、合弁先企業がベトナム企業顧客を開拓することを役割として合弁契約を結び、研修事業を開始しました。案の定ですが設立後3年目には別れ話が役員会の主要議題となり、2015年での役員の任期終了を機に筆者は該当社を去っています。

    例として、筆者が社長として経験したベトナム合弁先企業との苦い思い出には以下のようなものがあります。

    • 出資金を振り込まない:催促を繰り返し、設立より1年後にようやく全額が振り込まれる。当面必要のないお金を持つ必要はないと考えるよう。
    • 個人からの出資が紛れ込む:事業へのコミットをさせるためと思われるが、合弁先の担当従業員が個人的に出資額の一部を振り込む。合弁先の経理担当は社内合意を認識せず、合弁先からの出資の一部と認めない。
    • 合弁契約を守らない:他社も提供している研修内容などの理由を持ち出し、合弁契約で合意済みの日本側の研修資料への知財費の支払いを拒否する。
    • 役割を果たさない:合弁事業に資本参加したのみで、ベトナム企業開拓の役割は合弁企業内の営業担当が担うと主張。営業担当が計画を達成できなければ、他の担当を連れてくるのみ。一方で、経営責任は合弁企業の社長である筆者が負うと主張。
    違法まがいの提案が来る:付加価値税を払わない方法、社会保険を最小化する方法などの提案が多くあり、採用すれば法的責任は社長が負い、採用しないと社長は前向きに経営に当たらないと苦情を申し立てる。

 

  • 伝統的なベトナム企業経営の考え方

    合弁企業の社長業は、合弁先とのやり取りで頭を痛める日々でしたが、一方で合弁先の投資先企業を訪ねる・研修を実施するなどの機会を通じて、伝統的なベトナム企業の経営手法を学ぶ格好の機会でもありました。

    • 政府とのパイプが営業の要

    フランスの植民地化で虐げられていた農工民層が反旗を掲げて独立を果たしたのがベトナム戦争です。従って戦中はもとより戦後もあらゆる産業は政府の傘下・指導の下にあり、政府の年次計画に沿って運営がなされます。未だに政府の息のかかった企業が産業の中枢にあり、政府関係機関との癒着の強弱により、受注や許認可が決まります。営業と言えば企業訪問が日本的な理解ですが、当地では政府とのパイプ作り、政府予算への組み込み・施策の承認・顧客企業の斡旋を得ることが重要な営業活動となります。

    • 50:50の分配思想

    50:50(ナムムイ・ナムムイ)はトラブルの仲裁時などに良く使われる考え方です。互いに痛みを半分ずつ分かち合う、一見平和的な発想ですが、ビジネスにも当てはめられると困ったことになります。

    ODA等を通じた建設案件などでは、投資額の50%が窓口担当の懐に入り、50%がプロジェクトに配分され、また50%が請負業者個人の懐に入り、残りの50%が請負業者の親族が経営する下請け業者に流れるなどして、最終的に建設に使われる額は限りなく少なくなるとよく言われます。

    特に営業担当者は、同様の発想で、受注額を自身の取り分と会社の取り分に分け、また親族に下請け発注することで自身の取り分を確保することがあります。企業に属しながらもあたかも個人事業者のようにビジネスを考えるのが伝統的なベトナム流です。

    • 利益の源泉は税金?

    ベトナム企業の買収などの際に必ず問題としてあがるのが、違法行為です。ベトナムの商店やレストランの多くはVATを請求しませんが、裏を返せばVATは申告していないということ、更には売上(法人・所得税)も計上していない可能性が高いです。50:50で勝ちえた収入が所得税の課税対象となりうるはずもなく、架空従業員による給与の水増しや、社会保険の不払いなども良くある不正の手段です。

    いかに関係機関と癒着し、法の目を掻い潜るかを会社経営の手腕と考えているベトナム企業も多く、勝手に違法行為を働く、また違法行為を持ち掛けられるリスクを念頭に置く必要があります。

 

  • おんぶにだっこに肩車

    一般には、ベトナムをいちから学ぶ苦労をしても独資での進出が勧められています。しかしながら、投資分野の規制や特殊な認可・優良地の使用権を得るなどのために合弁や買収によらざるを得ない場合もあります。

    こうした際には、事業認可の取得など、合弁先への期待を最小に限定し、他の全ては日本側で行う心づもりで合弁に臨むことが肝要です。おんぶにだっこに肩車ともいいますが、合弁先に期待せず、できれば経営への参加にも遠慮願うのが最善です。幸いにも相応の利益分配があれば、事業にあまり口出しをしないところはベトナム企業の良いところですが、そのためにも合弁するうえでは必ず儲からなければなりません。