□ 「辞めてもらう」人材にまで気が回らない?

人事制度に関するお悩みを伺うと、概ね各社共通して「実績・実力に応じて客観的・公正に評価し、昇給・昇格の判断をしたい」との期待をいただきます。一方で、会社の人事データを拝見すると、次のような状況がよく見られます。1.同一等級に長期滞留した人材が多い。2.立ち上げ時に入社した古株人材の給与水準が飛びぬけて高くなっている。3.等級間で給与が逆転している人材がいる。

人材の流動が激しいベトナムですから、各社コア業務を担う人材のつなぎ止めに苦心される一方、引き留め対象とならない人材の継続した昇給と滞留が見過ごされてしまうためでしょうか。こうした状態が続くと、滞留・高給与人材が給与原資を圧迫し、期待する人材に多くを振り向けられない。実力と異なる給与格差に従業員の不満が募る。古株が社内で大手を振り、古いベトナムの考えに社風が染められるなどの問題が生じかねません。

 

□ 日本の人事制度は世界的にも特殊?

日本でも中途採用が一般化し、役職定年などの制度が運用され始めていますが、まだまだ終身雇用に準じた人事制度のもと、緩やかな昇給・昇格と定年間近での役員昇進を行っている会社が多いように伺えます。

日本以外ではとも言えますが、ここベトナムでも日本とは異なる就労意識・慣行となっており、日本との違いを踏まえた制度設計・人材経営が求められます。

  • 人は自ずと辞めて行く

日本は世界一と言える長期勤続習慣のある国です。就労者の約5割が10年以上同一社に勤務し、5年超を含めると7割にもなります。一方でオーストラリアは3年内で転職する就労者は3割超、5年内を含めると半数強となります。ベトナムでは、オーストラリアと同じ、もしくはそれ以上の転職傾向が見られます。

  • 妥当な給与水準は存在しない
    ベトナムの就労人口は約5400万人ですが、うち民間企業に勤務する就労者は12%に過ぎず、外資系企業に絞るとわずか3%です。日本ではサラリーマンの年齢別平均所得などが自身の給与の高低を測る物差しとなりますが、ベトナムでは通用しません。採用支援会社や公的機関が提供する給与調査データは、賃金テーブル作成時の根拠として参考にできますが、ベトナム人材の納得や満足が得られるわけではありません。ベトナム人材にとっての妥当な給与水準は、外資系企業勤務に限らない、家族・知人・友人の裏経済を含めた所得水準との比較で決まります。
  • 出世を急ぐベトナム人材
    ベトナムの経済成長が始まったのはアメリカからの経済封鎖が解除された1994年以降と思いますが、わずか20年予の間に大きな格差が生まれました。日本の10億長者の平均年齢は72.6歳とのことですが、資産3,000億を超えるビングループのブオン会長は49歳、ベトジェットのタオ社長は47歳です。ベトナム人材の期待は30代でマネージャ、40代で経営陣入り(もしくは独立)でしょうか。

 

 □「辞めて行く」人と「辞めてもらう」人への備え

日本とは異なるベトナムで人事制度を確立していくためには、まずは各社なりの人材経営の指針を固める必要があると考えます。

自ずと辞めて行く人材については、人が変わっても仕事の質が変わらないよう、日本人が苦手な形式知化に本腰を入れて取り組む必要があります。一方で、成長が見込めない人材には辞めてもらう備えも必要でしょう。まま「いなくなると困るので」という声も耳にしますが、長期的に見てその人材が本当に必要なのか、会社と本人双方の将来の視点から考えたいものです。「成長しないこと」を理由とした解雇はできませんが、等級別基本給に上限を設ける・評価の結果として昇給しない、などは該当人材に対する離職勧告のメッセージとなります。

また、将来を期待される人材には、より高いハードルを提示して動機づけるというのはいかがでしょう。期待を満たし、実績を上げられれば20代でもマネージャになれるなど、実力のある人材の早期の昇格を可能とすることで給与水準を高めることなく、若手優秀人材の期待に応えられます。

日本的な人材経営慣行からか、「辞めてもらう」ことに抵抗感を感じる方もいらっしゃるようですが、人事は社長の仕事です。辞めてもらう勇気を持つことも社長の資質の一つかもしれません。