• 「独立・解放・幸福」

普段は気にもされないかと思いますが、「Doc lap(独立)- Tu do(解放)- Hanh phuc(幸福)」は全てのベトナムの公式文書の右上に記載された、ホーチミン思想の根幹を表す言葉です。日本で言えば、「国民主権 – 平和主義 - 基本的人権の尊重」にも相当するものでしょうか。

ベトナムがホーチミン思想によって立つことは、2013年の憲法改正以前は前文にても謳われおり、2013年憲法では前文からは見当たらなくなったものの、依然として憲法文書の右上には「独立・解放・幸福」が掲げられており、第4条にて、ベトナム共産党のよって立つ思想として記載されています。

ホーチミン思想の教育資料によれば、概略ではこの「独立・解放・幸福」は以下のように説明されています。

「ホーチミン思想は包括的な思想体系で、ベトナムの革命に向けた本質的な課題に対する深い示唆である。それは、“国家としての独立、階級からの解放、人民の解放を指す”。革命に尽くしたホーチミンの人生と、ベトナムの独立・解放に向けた彼の願いは、“誰もが幸福で、衣食に足り、教育された人々”をもたらす」

2013年憲法の前文においては、「富民、強国、民主、公平、文明」が憲法の目的とされ、ホーチミン思想を国全体の根幹思想としては捉えなくなったように窺えますが、2005年教育法は、ホーチミン思想を基礎に置くとされており、「Doc lap(独立)- Tu do(解放)- Hanh phuc(幸福)」は今しばらくはベトナムの中心的な価値観のままでいるものと思われます。

 

  • 「解放」の誤解が過剰な自尊心を生み、「幸福」は権利であるとの誤解を生む?

ベトナムの独立戦争は、フランス・アメリカの傀儡政権から国を取り戻すという革命戦争であり、ホーチミン氏が被支配層の労働者・農民を決起し、また独立後に分断された民衆の意思統一を図るべく、独立・解放・幸福を旗頭としたことには頷けます。しかしながら、特に「解放」と「幸福」を革命思想的な理解のまま、ドイモイを経て市場開放・近代化を目指す今日にあてはめると、やや不協和音が生じそうです。

「独立」:ご承知のとおり、ベトナムには軍があり、徴兵制があります。また、国家常務委員会においては有事の際の総動員または局地動員の決定を下す権限があると憲法74条に定められています。長く続いた他国からの支配に対する強い独立堅持の意思は続いています。

「解放」:ホーチミン思想の中では「階級からの解放」と「人民の解放」という2つの解放が示されています。確かに、残業時間上限の拡大や定年年齢延長への国民からの強い反対に政府が決定を延期するなど、労働・農民層が社会の中心であるという価値観の表れが窺えます。また、「私の決意・決断を誰も止めることはできない!」という声をベトナム人スタッフからまま耳にします。「何びとも自分を批評・批判・抑制することはできず、自分の道は自分で決める」といった人民解放の表れでしょうか。ともすれば、傲慢で人の意見に耳を貸さず、自身の行動が他人を傷つけることも意に介さないベトナム人材も見かけます。

「幸福」:やっかいなのが、独立・解放の結果として、「誰もが幸福で、衣食に足り、教育された人々」をもたらすと説明されている点でしょう。「仕事を依頼すると、成果を出す前に報酬を要求する。毎年昇給するのが当たり前だと思っている」というのも良く耳にする話です。独立・解放を成し遂げた今日においても、独立・解放を堅持する限り、幸福(衣食や教育)は“与えられる”ものだと曲解している人がいるように思えます。

 

  • 異なる価値観を超えて、御社の価値観を打ち立てる

異なる歴史を持つ日本とベトナムは、自ずと根底にある価値観は異なりますが、革新や発展・成長を求めるなどは、互いの価値観とも矛盾せず共有できるものです。他国民の価値観を否定するような価値観を持った会社はないかと思います。価値観の違いを認識したうえで、一方に偏ることがないよう、各社独自の第3の価値観を打ち立てたいものです。

一方で、行き過ぎた「解放・幸福」の価値観を持ったベトナム人材に巡り合うことも良くあります。こうした人たちは会社の価値観を差し置いて、自身の価値観で行動することが多いため、採用時には職務経験やスキルのみならず、態度や考え方などの診断もされることをお勧めします。