問題発生時の対策が思いつき的、行き当たりばったりといった課題はベトナム共通のものと思われ、弊社でも問題解決講座やQCストーリ講座といった研修講座を通じて課題の解消に努めています。しかしながら、研修講座後に浮き彫りになるのが、特に現状分析・原因分析についての「分析力の強化」という新たな課題です。

  • よく見られる分析力強化の課題
    「なぜなぜ分析」は、日本人でも正しく行うのは難しいとも言われますが、他人の納得が求められる発言機会の少ないベトナム人材は、納得に向けた根拠集めともなる分析作業の経験が浅く、以下のような分析結果となるケースがよく窺えます。
  • 対策ありきの分析
    分析は仮説を持って行うのが効率的ですので、問題や原因を想定しておくことは大切ですが、分析の結果を「決まりがないため」など、「…がないため」と識別することがよくあります。こうした問題・原因識別の場合には、自ずと「決まりを作る」が対策となってしまいます。
  • 主観的な分析
    「現場作業者が作業手順に従わなかったから」など主観的な分析結果も良く見られます。こうした分析は管理・監督者の視点で分析しており、作業当事者の視点となっていないと良く指摘します。作業者自身は「手順に沿わない」ことを目的に作業をしているわけではないため、分析にあたっては作業者の視点から、なぜ・どのように手順と異なる作業をしたのかを把握する必要があります。
  • 浅薄な分析
    「作業者が部品の組み付けを間違ったから不良が起きた」など、「なぜ間違ったのか」に踏み込まず対策を提起してしまうケースです。「間違わないように教育する」など提起される対策は暫定対策にとどまり、問題の再発防止につながる恒久対策が打たれません。

 

  • ベトナム人材の分析力強化

上記のような課題は概ね各社で共通しており、分析作業時の共通ルールとして基準化することにより、分析結果の間違い探しは比較的容易にできるようになります。

  • 「…ない(Khong)」「まだ…(Chua)」を使わない
    「…ない。まだ…」を使うと、実態の分析ではなく、期待(…があったら)の分析となってしまうため、使用を禁止します。また、なぜなぜ分析に際して「…ない。まだ…」を使うと、「なぜ決まりがなかったのか」といったように「なぜ」の問いかけが問題の解決(不良の削減など)と異なる方向に向かってしまいます。「...ない。まだ…」を使わず、どのように問題が発生したのか実態に即して具体的に表すよう指導します。
  • 問題発生のメカニズムを明らかにする

機械故障などはわかり易い例ですが、各パーツがどのように作用して故障に至ったのか、そのメカニズムを明らかにするよう指導します。人間系や手法系の問題でも同様に、「納品時間間際で慌てて作業を行ったため、一つの手順を漏らした」など作業間違い発生のメカニズムを解明することは可能です。
個人的な「理由」を離れて客観的な「原因」を把握することが難しいところです。

  • 事象ではなく、問題に対してなぜを問う

「事象系の問題」と「原因系の問題」とも言いますが、多くの問題は「発生した悪事象:不良品が検出された」と「解決すべき問題:誤った部品を組み付けた」に切り分けられます。正しくなぜなぜを行えば、事象系問題から出発しても根本原因にたどり着けますが、道のりが長いため、浅薄な分析結果となりがちです。問題事象にとらわれることなく、解決すべき問題を明確にした上で分析に取り組むことが望まれます。

 

  • 改めて現場力強化の必要性を再認識する

上記のような分析力強化のポイントは説明すれば皆さん理解できます。しかしながら、同時にそのような客観的な原因を見つけることはすごく難しい。という声も良く聞きます。なぜ難しいのか思い悩んでいたところ、ある経営者の方から、「現場に張り付いている管理者の報告書はわかりやすい」とのコメントをいただき、はたと気づきました。

皆さん問題発生のメカニズムを明らかにしなければならないことは理解できるものの、現場で作業者がどのように作業を、どのような気持ちで進めているのか知らないため、なぜなぜへの答えを持っていないのではということです。

ベトナムでは現場たたき上げの管理者は少数派にて、大卒者は始めから管理者や間接業務担当者であることが少なくありません。そうすると、現場を知らないまま高度な問題解決を期待される中核管理者に配置されてしまうこともあるわけです。

現実に根付いた分析を進めるうえで、あらためて管理者の現場力の強化が期待されます。