本年も弊社では「論理的思考」の公開研修講座を開催し、例年同様に盛況でした。また、同業他社にても論理的思考をうたった研修講座をみかける機会は多く、ベトナム人材の論理思考に関する課題認識の高さがうかがえます。日本で論理思考というと、ロジックツリーやMECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)などのツールを教えるのが一般的ですが、ベトナム人材の論理思考はそうした高度なツールを活用する以前の課題のように感じます。

 

  • 聞き手の理解、納得を得る場面で論理性は求められるが。。。

弊社の論理思考講座の冒頭では、「問題報告の目的はなんですか?」と問いかけます。すると、「問題状況を共有するため」や「問題を解決するため」といった回答がよく返ってきます。

上意下達のトップダウンが一般的なベトナムでは、問われれば意見は言うが、意見を採用するかどうかは上司の判断といった発想が強いようです。同僚の意見に耳を傾けず一方的に発言するだけといったように、会議でも同様の状況がうかがえます。採決は議長の役割であって、参加者は各々の意見を発言するのみといった感じです。従って、他参加者の意見を汲んで建設的に議論する、皆の意見を総合して結論を導く、聞き手の合意を得る、納得させるといった論理性が求められる場面には不慣れですし、そうした機会に恵まれることが少なかったとも言えます。

 

  • 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義し、意思決定のプロセスに沿って情報を伝える。

こうした背景のもと、ベトナム人材の論理性を鍛えるには、高度なツールの前に「第3者の理解を得るには」といった初歩的な段階から教育していく必要があります。

  • 聞き手に期待する行動で報告の目的を定義する

第3者の理解、納得を得るために論理性は求められます。従って、まずは報告の目的を聞き手の視点から定義する必要があります。例えば、問題報告の目的は情報の共有ではなく、提案する対策への承認を聞き手(上司)から得ることなど、聞き手に期待する行動で定義するように指導しましょう。

  • 聞き手の意思決定に必要な情報を提供する

「聞き手の理解を深めるために、より多くの情報を提供すべき」といった、誤回答が弊社の講座内テストでは見受けられます。種々雑多な情報が整理されずに報告される、といった課題認識もよく耳にしますが、何でも知っていることはすべて話そうとしてしまのでしょう。聞き手に期待する行動を明確にしたうえで、その行動への意思決定のためにはどんな情報が必要か、必要十分な情報に限定して情報を収集し、伝えるよう指導しましょう。

  • 意思決定のプロセスに沿って情報を整理する。

顧客の購買意思決定についてですが、「認知➡理解➡評価➡判断」といった段階を経て人は意思決定に至るといわれています。認知段階では明確な主題や提案内容が期待され、理解段階ではなぜその提案に至ったのか背景や理由が期待され、評価段階では代替案の比較情報が期待され、これらの段階を踏まえて最終的な判断に至るというものです。聞き手に期待する行動を取るよう意思決定を促すためには、こうした聞き手の意思決定のプロセスに沿って情報を整理・提供するよう指導しましょう。

 

  • 論理的な報告を型にはめる

人気を博する「論理思考講座」ですが、課題はそう簡単には解決しません。多くの受講生からは「理屈はわかるが実践は難しい」という声がよく聞かれます。なにぶん他人を説得する、理解を求める機会が少なかったベトナムですから、当たり前に論理的に話ができるようになるには時間と経験が必要です。

手っ取り早く論理的な報告を促し、また経験を積ませるには、まずは型にはめるのが早道と思います。問題報告書やクレーム対策書などはもとより論理的に構成されていますので、記載要領を含め、可能な限り必要な報告は定型化し、経験の浅い人でもある程度論理的な報告ができるように仕向けるのが良いかと思います。

ベトナム人材の論理的思考は各社共通の関心の高い課題ではありますが、客観的な説明を求められる機会や経験が少なかったことが主因と思われますので、経験を積んでいけば徐々に改善されていきます。