仕組みで育てる

特に会社に伺っての社内研修では、弊社に教育のご依頼いただくのは、従業員規模150名超の会社がほとんどです。筆者の知見からは、機械加工の会社でベトナム人従業員70~100名に1名の日本人、組み立て企業では200名から最大で1,000名に1人の割合で日本人が駐在されているようです。1人の日本人が直接指導できるベトナム人の数はせいぜい20名程度まででしょうから、手に余る体制となって、教育の依頼をいただくようです。

 

□「学ぶべき背中がない」「部下を育てない」

「子は親の背中を見て育つ」とも言いますが、確かに日ごろ日本人と接する機会の多いベトナム人管理者は日本人の背中から学んでいる点も多いようです。しかしながら、課題となるのは中堅以下の従業員で、学ぶべき背中もなく、また上級管理者からの教育を期待するも、「ベトナム人管理者が部下を育てない」という声を良く耳にします。

「ベトナム人がベトナム人を育てないのは、自身の立場を脅かす存在になるのを恐れるため」とも言われますが、筆者の観察からはむしろ、「受身教育の中で、人に教える機会が少なく、一方的で曖昧な指示をするだけ」「プライドの高い部下が多く、指導を受けるとむしろ反発するため、教えることをあきらめてしまう」といった問題が存在するようです。教える側には教え方を、教えられる側には教えられ方を身につける必要があります。

 

□ 仕組みで育てる

弊社の講師は大手の日系企業出身者となりますが、彼らから「もと働いていた会社は、何がすごいかといえば仕組みがすごい」と言われて、はたと気づかされたことがあります。もちろんそうした日系企業にはしっかりとした教育体系もありますが、特別な内容の教育をしているわけでもありませんし、教育に必要以上の時間を割いているわけでもありません。しかしながら、会社で生活をする中で自然と期待される行動が取れるように、随所に仕掛けが施されているわけです。以下に、幾つか例をあげてみましょう。

・朝礼項目に、互いに安全具の装着や靴のかかとを踏んでいないかなどチェックしあうことが盛り込まれている

・昼食場に向かうルートが線引きされ水道の前を通るため、手を洗わないと食堂に入れない

・トイレのスリッパの置き場・置き方が写真つきで明示されている

・不良品の発生時やヒヤリ・ハットの体験時など報告フォーマットや回付ルートが規定されており、自然とホウレンソウが実践されるようになっている

・改善提案が制度化されており、各月の提案目標や評価方法、昇進・昇給判断への反映方法が規定されている

 

 

□ 仕事の仕方の標準化

「こんなことも教えなければいけないのか。。。」ベトナムで仕事を始めると、日本では当たり前だったことがベトナム人にとっては当たり前でないことの多さに驚かされます。文化も異なり、WTO加盟から10年も経っていないベトナムの人材はまだ無垢の状態と考えたほうが良いでしょう。

多勢に無勢なアウェイの環境で、日本人が一つ一つ注意、指導をしていくには限界があります。

当たり前のことを一つ一つ仕組みに落とし込み、自社流の仕事の仕方として標準化していく必要を感じます。幸いベトナム人材は、日本的な仕事の仕方に敬意を表し、多少複雑な内容でも苦もなくこなしてくれますので、仕組みが整えば運用は比較的楽です。

体力のいる仕事ですが、仕組みを積み上げていくことによって、駐在員が変わっても、またベトナム人材が流動する環境下でもぶれない仕事の運営ができるようになります。