挨 拶 か ら 始 め ま し ょ う

◇ 連載のはじめに

この「ベトナム人材の活かし方、育て方」では、今回から十数回にわたって、「叱っても怒らない」「まずは笑顔で」「信用しても信頼しない」など、日本人管理者がベトナム人材を育てるうえでの留意点を、ベトナムの歴史・人材の特質や考え方の違いを踏まえてお伝えします。ベトナムで事業を行う皆様が、ベトナム人材の強みを活かして、共創する職場環境を作るお役立ちができれば幸いです。

 

今年でベトナムに進出する日系企業の皆様のベトナム人従業員向け教育を始めて8年目になります。

事業を立ち上げたばかりの頃は、ベトナム人だからと高をくくって気を抜いた講座を実施してしまい、顧客としてのベトナム人の目の厳しさに舌を巻いたこともありました。モチベーションの落ちた受講生たちに、研修など受けても意味がないと総スカンを食ったこともあります。一方で、「ムリムダムラ」を教えたところ、翌日から従業員が「ムダムダ」と言い始めたと喜びの声をいただいたり、管理者の役割責任を学んで、すぐに管理者たちが自主的に打ち合わせを持って課題の検討を始めるなど、行動変化が現れ易いベトナム人向け教育の手応えを感じたことも多くあります。はたまた、ベトナム人マネージャから「うちの日本人は『こいつは馬鹿だ』と通訳しろという。うちの日本人を教育して欲しい」と頼まれたこともありました。

 

□ 教育の成果も職場の風土しだい

総じてベトナム人は知識や経験がなく無垢なだけに、教育の効果は日本人を相手にするのに比べれば格段に高いのですが、教育が成功するかどうかは多分に会社の職場環境に依存するものだとも感じます。職場に活気があり、従業員が新しい取り組みにうずうずしている職場では、知識の吸収への関心も高く、おもちゃを与えられた子供のように学んだ手法を活用し始める場面がよく見られます。

そんな私が、会社を訪問して一番に確認するのが、ベトナム人従業員が挨拶ができるかどうかです。

門の守衛さんに始まり、訪問を受け付けてくれるベトナム人スタッフ、工場内の現場作業者まで挨拶ができる会社は総じて教育が成功しやすいと感じます。現場作業員が手を止めて来客に挨拶することには賛否両論がありますが、ベトナム企業または一部の日本企業でも現場作業員が来客と目が合うと、目を背けるケースもありますので、いかに人を受け入れる心の準備ができているか推し量る一つの目安としています。

外国人には総じて愛想の良いベトナム人ですが、一般にベトナム人同士は近しい友達や家族でもないと挨拶を交わすことはありません。互いに衝突を避ける傾向があるため、不要な会話は避けるのが一般的です。挨拶習慣のないベトナム企業では、事務所の中は静まり返り、従業員間のコミュニケーションがすべてチャットで行われているような会社もありました。当然のことながら、このような会社では自ら進んで手をあげるようなことははばかられ、社長の指示がない限り行動を起こさない「事なかれ主義」がはびこります。

 

□ 日本人が模範を示しましょう

日本ではOASIS(おはよう、ありがとう、失礼します、すみません)といったりしますが、ベトナムでもBa Xin(Xin Chao, Xin Loi, Xin Cam On)という美しい言葉があります。日本でも挨拶を励行するのは人の心を開き、職場の風通しを良くするためです。ベトナム人同士も挨拶を励行することで少しずつ互いの疑心暗鬼がほぐれていき、問題だと思っていること、こうしたら良いのではといったアイデアが周りの目を気にせず発案できるようになっていきます。

会社によっては「おはようございます」など、日本語での挨拶を推進しているところもあります。ベトナム人は外国語への関心も高く、日本人と会話をするのを楽しみにしていますので、喜んで日本式の挨拶をしてくれますし、日本からの来客には受けが良いのも確かかと思います。しかしながら、ベトナム人同士のコミュニケーションを図る目的では、日本式の挨拶は効果に疑問が生じてしまいます。日本の外資系企業でも日本人同士は“Good morning”と挨拶はしないのと同じで、ベトナム人同士が「こんにちは」と挨拶をしているのは冗談半分の場合を除き、あまりみかけません。

挨拶に不慣れなベトナム人が進んで挨拶を始めるまでには時間も労力も必要です。まずは日本人が率先して、会った人、すれ違った人の全てに挨拶をする。会議や朝礼の始めには必ず挨拶を行うなど先陣を切って見せて教えていくことが重要です。

挨拶は社員が心を開き、一丸となって仕事をする上での初めの一歩だと感じます。まずは、挨拶から始めてはいかがでしょうか。