ここまで、採用・活用・評価・育成・賃金の視点から、べとナムにおける人材経営の要点を見てきました。これらの要点を制度として組織的に運用する仕組みが人事制度となります。日本における人材経営とベトナムにおける人材経営の前提が異なるため、人事制度もベトナムに合わせて現地化する必要があります。

ここまで、採用・活用・評価・育成・賃金の視点から、べとナムにおける人材経営の要点を見てきました。これらの要点を制度として組織的に運用する仕組みが人事制度となります。日本における人材経営とベトナムにおける人材経営の前提が異なるため、人事制度もベトナムに合わせて現地化する必要があります。

  • 日本的人事が生む、人材状況のゆがみ

世界でもまれな終身雇用、年功序列で人事が運営される日本では、一生勤め上げる心づもりで就社し、あまり差のつかない決まった昇給を毎年受け、半ば約束されたように年齢に応じて一定の職位までは昇進することがよくあります。しかしながら、ベトナムは諸外国と同様に、皆が同じ道を歩むような人事にはなじみません。

日本的な感覚で人材経営を進めた結果、よく見られる人事状況のゆがみは、1)同一等級での従業員の滞留、2)上位等級者と下位等級者の給与の逆転、3)管理者層の肥大化といったものでしょうか。将来を期待される人材の早期の離職に目を奪われている間に、目立たない一般人材が滞留し、職場の親玉化してしまった。高給を希望する従業員を会社の給与体系と添わないと知りつつも採用してしまった。従業員の昇給交渉に応じているうちに水準を上回る給与となってしまった。勤続への動機づけ、または頑張っているからと必要以上に昇格者を増やしてしまった、などが背景にあるようです。

 

  • 世界的にも特殊な日本の人事制度のままではベトナムでは通用しない

就社というより就職意識の強いベトナムでは、常に他社の同職務の給与水準に目を配り、より高い給与での転職を繰り返すことをキャリア開発だと考えている節もあります。また、概ね30前後で課長、40前後で部長、50前後で役員を目指すスピード感でのキャリア上昇を期待します。

こうしたベトナム人材の就職観・キャリア感は、むしろ欧米系企業の人事制度ち合っているとも言えます。日本では各社が同様の予定調和的な人事制度の運用を行っているため、違いが際立ちませんが、世界各国から会社が進出するベトナムにおいては、ともすれば日本企業に勤める優秀なベトナム人材は他社へ高給で引き抜かれる格好のターゲットとなりかねません。

むしろ世界の常識に近いともいえる、ベトナム人材の就業感に、そのまま日本的人事を当てはめれば、辞めて欲しい人材を引き留め、将来を担って欲しい人材の離職を促す人材状況を生み出しかねません。

 

  • 腰を据えて人事制度改革に取り組みましょう

とはいえ、会社の理念や価値観のもとに長期経営を行うことを強みとする日本企業においては、欧米企業のように経営者ですら外部から調達する人事は、逆に日本企業らしさを失うことにもなりかねません。会社での仕事の仕方・考え方が、長い就業経験の中で染みついた会社の“らしさ”を体現する人材に将来の会社の行く末を任せたいものです。

日系企業に期待される人事制度は、会社の理念に沿って成果を出せるベトナム人材に、より早いスピードで成長・昇進する機会を与え、継続的に次世代を担う人材を輩出する制度となります。また、人件費総額を業績に応じた範囲にとどめるよう、会社の理念に沿えない、もしくは成長が見られない人材については、会社からの期待への充足度、業績貢献に応じて、昇給を抑える工夫も必要となります。

一方で、日本の人事制度をそのままコピーして会社を立ち上げ、事業の安定や、拡大から効率化への会社の成長ステージの転換期に至って、人事制度改定の必要性に気付く会社も多くあります。相当年数が経過して後の、人事制度改定にあたっては、それまでに積もった垢を落とす作業も必要となり、腰を据えた取り組みが必要となります。

人事制度の改定には、設計に概ね半年、展開に1年、新たな制度に基づく給与が策定されて様子を見るのに更に1年、計2年半は要する息の長い取り組みです。また、制度改定の過程で、それまでに蓄積された滞留人材、成果以上に給与が支払われれている人材への対処が必要となる気の重い取り組みともなります。

人材状態のゆがみが少ない、できる限り早期に、取り組み始めることが得策となります。

 

「帰任の声が聞こえて、最後の総決算として人事制度を見直したい」。筆者がご相談をいただく多くのケースにて、いただくコメントです。ベトナムでの赴任期間を経て、最終的に人事制度改定の必要性に気付かれるのかもしれません。一方で、改定途上での帰任、もしくは改定後の制度を担うのは新たなな赴任者となるなど、せっかく改定した制度が定着しないケースもまま見られます。赴任者間の現法経営の引継ぎが一貫性をもって行われるとともに、本社人事機能による長期的視点の下での現法育成が期待されます。