「現地の子になる」という海外展開での指針を持つ会社の経営者からは、「果たしてベトナム流に染まって良いものか」というご相談をいただいたことがあります。また、ベトナム人スタッフより「ここはベトナム。日本流は通用しません」と言われて困っているとの声も伺います。

一般に駐在員の皆さんは「異文化を理解し、融和せよ」と教えられてきているかと察しますが、いざ目前のベトナム流への違和感に対して、何をどこまで日本化すべきかは悩まれるところと存じます。

「現地の子になる」という海外展開での指針を持つ会社の経営者からは、「果たしてベトナム流に染まって良いものか」というご相談をいただいたことがあります。また、ベトナム人スタッフより「ここはベトナム。日本流は通用しません」と言われて困っているとの声も伺います。

一般に駐在員の皆さんは「異文化を理解し、融和せよ」と教えられてきているかと察しますが、いざ目前のベトナム流への違和感に対して、何をどこまで日本化すべきかは悩まれるところと存じます。

 

  • 放っておけばベトナム流になる

外資系企業がベトナムの貿易黒字に大きく貢献しているとは、良くベトナムの新聞報道で言われることですが、就労人口のわずか4%が外資系企業に勤めるベトナムでは、外資系企業の仕事の仕方はまだまだマイノリティです。放っておけば、大勢を占めるベトナム流に会社が染まっていきます。代表的なベトナム流は、縦横の組織・役割の細分化、命令と監視による統治、個人の責任と裁量による運営といったところでしょうか。

経営者・オーナが絶大な権限を持ち、事細かに意思決定や指示を出す、ベトナム流の経営手法においては、ベトナム流でも仕事は回ります。課題は、こうしたベトナム流に、どこまで親会社の血を注ぐか、経営の現地化・自立化に向けて文化・風土を根付かせていくかということでしょう。

 

  • 自社の競争力の源泉となる仕事の仕方を見極めたい

日本流とは言え、根回しや事なかれ主義、空気を読むなど、日本では処世術として必要となる仕事の仕方でも、ベトナム人材には真似て欲しくない、日本の文化や価値観もあります。

一方で、家族主義や離職の多さ、組織への帰属意識の低さなどのベトナム(海外)の特徴は、日本がむしろ特殊であることを鑑みれば、覆すのが非常に困難な文化・価値観でもあります。

そこで、家族主義などは受け入れるとしても、「これだけは譲れない」と誓える、自社なりの仕事の仕方や価値観は何なのかを見極めることが求められます。本来そうした価値観は、会社が生き残り、繁栄していくための教訓・競争原理となる経営理念に表されているべきものですが、特に平淡で長い文章で書かれた理念の場合は、なかなか「これだけは。。。」と思える仕事の仕方が見出せないようです。

しかしながら、実は会社なりの仕事の仕方というのは、駐在員の皆さんが日本で仕事をしているうちに、気づかぬうちに染みつき、皆さんの日々の仕事の仕方に現されているものです。様々な会社に出入りする、筆者の会社のような場合には、自ずと会社毎の社風の違いが見え、また社風に沿わない提案をしないよう気を遣うところでもあります。例えば、作業中に顧客が現場を巡回した際に挨拶をすべきか、すべきでないか。安全・品質に影響があるため、顧客から声をかけられても挨拶はするなと、指導する会社もあります。また弊社に依頼いただく教育の内容も効率や生産性の向上を重視した内容を期待される会社と、チームワークやリーダシップなど人間力の強化に力点を置く会社の違いがあります。

自社の競争力の源泉となる仕事の仕方は何なのか、文化や価値観の異なるベトナムにおいても、「これだけは譲れない」と誓える仕事の仕方を見極めたいものです。

 

  • 仕事の仕方を言葉で表し、共有する

自社流の仕事の仕方が、わかりやすく明文化されている会社もあります。「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「現地・現物」「ワイガヤ」など、皆さんも耳にしたことがある会社の行動指針ですが、いずれも国や文化・風土が異なれど、これだけは譲れない競争力の源泉であり、仕事の仕方・価値観なのだと思います。筆者の会社のモットーは「Work for Value」ですが、顧客の期待を超えるべく仕事をすること、顧客や関係者と信頼を醸成すること、これらは譲ることのできない価値観です。

「進化:Evolution」を会社の価値観として掲げる会社もありました。生物学的な「進化」の意味合いの理解しかないベトナムにては、この言葉一つにしても、説明や共有に時間を要する価値観でもあります。

既に明文化され体に染みついた仕事の仕方がある会社にては、これを高らかに謳い、積極的に共有していきたいものです。明文化されていない会社においては、自身が「これだけは譲れない」と思える仕事の仕方を言葉に表し・磨き上げ、ベトナム人材と共有を進めていければと思います。

 

外資系企業がマイノリティであるベトナムであるがゆえにも、仕事の仕方や価値観を普及していくと、ベトナム人材も会社の色に比較的容易に染まっていきます。また、会社の色が明確になることで、会社になじまない人材の見極めも容易になり、採用段階からご遠慮を願うことも可能となってきます。

現法の経営の現地化・自立化に向けて、仕事の仕方の共有、競争力の源泉の移転を進めましょう。