トヨタ社社長や経団連会長が終身雇用の維持は難しいとの発言もありました。筆者は、70歳まで働き続けられる場所を確保することを企業の努力義務とする、としている日本政府への布石とみています。

早期にベトナムへ進出した会社では、早くも創立25周年を迎えており、定年退職者を輩出する会社も出てきています。従業員のキャリア構築はベトナムにおいても人材経営上の検討課題となります。

トヨタ社社長や経団連会長が終身雇用の維持は難しいとの発言もありました。筆者は、70歳まで働き続けられる場所を確保することを企業の努力義務とする、としている日本政府への布石とみています。

早期にベトナムへ進出した会社では、早くも創立25周年を迎えており、定年退職者を輩出する会社も出てきています。従業員のキャリア構築はベトナムにおいても人材経営上の検討課題となります。

 

  • 離職の抑制か、新陳代謝か、2分化する賃金設計の悩み

賃金制度へのご相談は、高い離職率・毎年の最低賃金上昇・高い昇給意欲のもと、必要な人材をどう維持するか、はたまた長勤続者の滞留・賃金の高止まり・若手の離職増のもとで、どのような賃金政策を取るべきか、に2分されます。前者は比較的社歴の若い会社に多い課題で、後者は比較的社歴の長い会社に多く見られる課題です。

お気づきの通り、前者と後者の課題は別個のものではなく、従業員の定着に向けた勤続重視の賃金政策が、中長期的には人材の滞留と高賃金化を生んでしまったというものです。

賃金制度は、直面する課題にのみ注目して設計するものではなく、長期的な人材構成への影響を踏まえて設計すべきことがわかります。

 

  • 定着と昇給、成果の方程式を解く

3~5年で大半の人材が入れ替わるベトナム。一般的なベトナム人材の就職・離職プロセスは、1年目で仕事を覚え、2年目で自信をつけ、3年目で勝ち得た経験と自信のもとに、より高給での転職機会を待ち受ける、といったものでしょうか。会社にしてみれば、やっと仕事を覚えたと思ったら「転職します」の声にはがっくりするところですが、一方で毎年の最低賃金改定、昇給のもとでは勤続も5年を過ぎると、職務が生み出す成果を賃金が上回る状況も生まれます。

人事用語に、賃金レンジとポリシーラインというものがあります。賃金レンジはある職務に与えられる賃金の上限と下限の幅を表し、ポリシーラインは会社における該当職務の重要性や労働市場との競争性から求められる標準値を表します。内部昇進や採用によって、新たに該当職務に就いた人材の賃金は下限より始まり、1人前になったところでポリシーラインに達し、習熟を経て上限に至るという考え方です。高い昇給率を設定すれば、賃金レンジの下限から上限に至るまでの年数は短くなり、低い昇給率を設定すれば、年数は長くなります。

より高い昇給を望む従業員には、どのくらいの期間での習熟を期待し、安定志向の従業員には、どのくらいの昇給率が許容範囲かが方程式の変数となります。

 

  • キャリアパス設計のもと、賃金に上限を設けるかが意思決定点

3年目を迎えて勤続するベトナム人材は、成長を期待され、また将来の昇進を期待し勤続するタイプ、会社が家に近いなど就業環境が家庭生活との両立に都合の良いことから勤続するタイプ、昇進・昇給よりも親しみの持てる職場で安心して就業したいタイプに分かれるように見られます。

従って、昇進・昇給への期待の高い従業員には同職務への勤続が3年を超えて以降にはより高い成果を期待される職務への昇進・昇格の用意が必要でしょう。家庭生活との両立もしくは安定した勤続を求める従業員にはどの程度の昇給が継続雇用を保証する下で必要となるかが検討要因となります。

特に高い昇給・昇進意欲を持つベトナム人材は、30代前後でマネージャ、40代で独立自営を含む経営陣入り、50代で経営者となるといった、スピード感がキャリア設計に求められます。一方で重要なのは、昇進・昇給意欲は高いものの実力が伴わない、または家庭志向や安定志向の従業員が賃金レンジの上限に至った際の処遇をどうするかです。

勤続意思のある従業員は辞めさせない日系企業の伝統慣習にては、酷な判断となりますが、既に賃金レンジの上限に達しているが昇進・昇格の目途が立たない従業員については、最低賃金の上昇分を除いては昇給しない、つまりは離職を促す賃金設計をするかが大きな選択肢となります。

 

終身雇用を前提とした日本では、正社員については採用通知はもらっても雇用契約は不明確となっているケースもよくあります。一方で、ベトナムを含む世界では、有期契約が一般的で、いち従業員が一つの会社に勤めあげることを前提とはしていません。昇進時はもとより昇給時には、会社と従業員は新たな雇用契約を結びなおすような理解が必要です。内部昇進を重視する日系企業においては、優秀な人材にはできるだけ長く働いてもらい、職位の階段を上ることが期待されます。従業員の昇進への期待に沿ったキャリアを用意し、雇用契約の継続へ促すとともに、昇進の可能性の低い人材については、雇用関係を解除する心づもりも必要となります。