ここまで7回にわたり、ベトナムでの人材経営の落とし穴を見てきました。今回より、落とし穴に落ちぬよう、また各現法が目指す現地化・自立化を一歩前進するための人材経営について長期・戦略的な視点から考えていきたいと思います。

ここまで7回にわたり、ベトナムでの人材経営の落とし穴を見てきました。今回より、落とし穴に落ちぬよう、また各現法が目指す現地化・自立化を一歩前進するための人材経営について長期・戦略的な視点から考えていきたいと思います。

 

  • 従業員が辞めないための人事制度思考から脱却しましょう

将来を期待したベトナム人材が他社の高給につられて離職、穴埋めのために高給で採用した経験者は実力が見合わず離職、常時採用を続けるようになり、業務が不安定な状況となっている。まずは従業員の定着に向けた人事施策を手掛けたい。よく伺うお悩みです。こうした状況になると、目先の離職を抑えるための、従業員が辞めない人事制度に思考が向くようになってしまいます。

人材が定着した後には、コア人材を見出し・育て、人材が流出しても事業が影響されない強固な仕組み作りを志向されることでしょう。しかしながら、そうした安定した人材環境はなかなか訪れません。ベトナム(世界)の離職率は日本よりははるかに高く、従業員の定着を高める人事施策とコア人材を見出し・育てる人事施策は相反するものでもあります。

 

  • 戦略的な人材経営を目指して

最近では、優秀なGMクラスのベトナム人材も日系企業で見かけるようになりました。我が事として経営に参加し、自分なりのビジョンと判断基準を持ち、経営陣の一角としての風格を表すようなベトナム人材です。こうした人材は、もちろんその実力に見合う給与を得ていることもありますが、むしろ自身の仕事にやりがいを感じ、期待されることに自信と誇りを持っていることが働き続ける動機づけになっているように感じます。

こうしたコア人材が従業員の1%程度おり、その予備軍が5%程度いれば、コア人材を中心に仕事の仕組化を進め、他の人材がある程度流動しても事業に影響を及ぼさない体制運営が可能となります。こうしたコア人材の発掘・育成に主眼を置くか、その他大勢の従業員の定着に主眼を置いて人材経営を進めるかが戦略的な判断点となりましょう。コア人材の発掘・育成に主眼を置くならば、従業員が離職したとしても、その人材が将来のコア人材に足る素養を満たしていなければ、悔やまないことです。また次の候補人材の発掘に目を向けることが得策となります。

もちろん、こうしたコア人材を中途採用できる可能性は限りなく低く、また候補者の育成過程でも高給に目がくらんで他社へ転じたり、脱落していくベトナム人材が大半です。しかしなら、最終的にはこうしたコア人材を確保し、また予備軍を育て続けない限りは、事業が安定せず、現地化・自立化が進まないとすれば、人材の定着を主眼とするか、コア人材の発掘・育成を主眼とするかは、いずれを近道と考えるかの選択となります。

 

  • コア人材の発掘・育成に向けた人材マネジメント

コア人材の確保と予備軍の継続的な輩出は容易なことではありませんが、取り組まなければ事業運営の安定化と現地化・自立化への進展は訪れません。そのためには、必要な要員数を維持することに安住せず、人材マネジメントサイクルを回し続けることが期待されます。

採用(発掘)・配置・評価・育成といった連携した活動を人材マネジメントサイクルと言います。全ての会社は各活動を進めていると思いますが、各活動を全従業員の定着に向けて行うか、コア人材の発掘・育成に向けて行うかで、対象の従業員や活動の内容が変わってきます。例えば採用活動に当たっては、候補者の比較を行うにあたり、空きポジションを充足する経験や能力を持っているかのみならず、自社の理念に沿った価値観を持っているか、成長意欲や将来像を描けているかなども比較材料となってきます。

改めて、自社の人材経営の戦略的指針を再確認してみませんか。

 

弊社の講座にても、ベトナム人マネージャが、要員の不安定を問題視し、自社の給与や福利厚生が不十分と課題指摘するケースがまま見られます。当のマネージャも他社の芝生が青く見え、会社を去っていきます。恐らくはまだ我が事として会社経営に参加しておらず、他人事として会社に忠言しているのでしょう。コア人材に至らないベトナム人マネージャの忠言を真に受けぬよう、注意しましょう。