2019年になり、弊職の在越も13年目を迎えることとなりました。ベトナム人材向けの研修、駐在員の皆さん向けのセミナーを通じても、年を追うごとに四方を海で囲まれた日本の特殊性を感じ、また日本の常識と異なるベトナム(世界)の常識をお伝えしてきています。昨年も駐在員の皆さん向けにベトナムにおける人事制度構築のセミナーを開催し、日本の人事制度をそのままに活用している日系企業が多い中で、警鐘を鳴らしたところでもあります。

2019年になり、弊職の在越も13年目を迎えることとなりました。ベトナム人材向けの研修、駐在員の皆さん向けのセミナーを通じても、年を追うごとに四方を海で囲まれた日本の特殊性を感じ、また日本の常識と異なるベトナム(世界)の常識をお伝えしてきています。昨年も駐在員の皆さん向けにベトナムにおける人事制度構築のセミナーを開催し、日本の人事制度をそのままに活用している日系企業が多い中で、警鐘を鳴らしたところでもあります。

 

  • 世界的にも特殊な日本的人事

日本的人事の特徴といえば、定期一括採用、年功序列、終身雇用でしょうか。

日本的人事は従業員に安定した雇用環境を提供し、従業員の会社への帰属意識と主体性を育む、長期永続を旨とする日本企業の強みを支える制度といえます。

一方で日本経済が成熟期に入った今日においては、管理職層の肥大や景気変動に応じた対応が困難になるなど、日本的人事の弊害も顕在化しており、経済規模では世界第3位の日本も平均所得では世界18位程度に位置づけられるに至っています。

日本では大半の会社が日本的人事に沿った運営を行っているため、日本人には違和感がなく、半ば常識化している日本的人事ですが、ベトナム現法の経営にあたっては、あらためてその特殊性を意識する必要が出てきます。

 

  • 盲目的な日本的人事の継承はリスク含み

早くからベトナムに進出した日系企業の中には創業20年を超える会社も出てきています。日本的人事を踏襲した会社には、管理者層の肥大化や平均給与の高振れ、従業員の平均年齢の高齢化など、日本で起きているのと同様な弊害も現れつつあります。

また、当然ですがベトナムには世界各国から企業が進出してきており、日本企業で経験を積んだ従業員は、ベトナム企業はもとより他国企業からの引き抜きのターゲットとなりがちです。日本的人事を踏襲する日系企業は、全従業員の勤続を期待して昇給予算を組むため、同じ昇給予算でも優秀者をより厚遇する他国企業にしてみれば、特に日系企業の優秀者は割安に映ってしまいます。

就社ではなく就職意識が強く、転職に劣等感が伴わず、昇進・昇給を急ぐベトナム人材においては、ともすれば日本的人事は非優秀者を温存し、優秀者に転職を促す制度ともなりかねません。

日本では常識化している日本的人事ですが、海外ではむしろ非常識であることを念頭に置く必要があります。

 

  • 人材経営の指針を打ち立てたい

ベトナムを含めた海外で日本的人事を踏襲することにはリスクが伴いますが、さりとて日本企業の特徴でもある、長期永続の強みを失うわけにはいきません。特に現法の現地化・自立化を担うコア人材については内部昇進を通じて実力・統率力を高め、長期勤続を通じて事業へのオーナシップを持ち・我が事として仕事に向かい、会社が共有する仕事の価値観を体現してもらいたいものです。

一方で、日本と異なり余裕人員の配属先に困らないほど体制・規模に余裕のある現法はベトナムでは少ないかと存じます。ベトナムでも35歳を過ぎると、低い職位での採用がされなくなり、転職の門は狭まります。自社での昇進・昇格の可能性が低い従業員には早期に別の道を歩んでもらうのも会社・従業員の双方の幸福を考えた選択肢です。

会社によっては「従業員が働き続けたい限り、会社は雇い続ける。年に5~8%の給与原資の増加はあるが、利益率を維持するのは経営者の仕事」と言い切る現法の経営者もいます。

日本的人事の弱点を避けて、優秀者を選抜・余裕人員を選別するか、はたまた居心地の良い職場の団結力に期待をするか、どんな道を選ぶかは現法次第ですが、人材経営の指針を打ち立て、盲目的に日本的人事を継承し、弱点をつかれることのないようにしたいものです。

 

人材経営の指針に関する議論を筆者のセミナーで行っていると、「わかってはいるが、経験を積み・仕事を任せられる従業員を手放すのは惜しい」。「空いた管理職の穴を、即戦力を期待して中途採用で埋めてしまう」。「従業員に退職勧奨をしたことがない」といった声が聞かれます。

長期勤続を奨励する日本的人事に染まるとともに、日本的人事に支えられ、よく言われる属人的な業務運営に慣れてしまっているようにもうかがえます。人材経営の指針を打ち立てるとともに、人が変わっても仕事の質が変わらない仕事の仕組化へ、仕事の仕方にもメスを入れる必要がありそうです。