今年も駐在員塾と称して、特に新しくベトナムに赴任された駐在員の皆さん向けに、現法の現地化・自立化に向けてベトナム人材・ベトナムの理解を助けるセミナーを毎月開催しています。参加された皆さんから上がる声は、なぜベトナム人は報連相ができないのか、言われた事しかしないのか、部門を超えて共同できないのかなど、比較的各社に共通するベトナム人材に関する悩みの声です。

今年も駐在員塾と称して、特に新しくベトナムに赴任された駐在員の皆さん向けに、現法の現地化・自立化に向けてベトナム人材・ベトナムの理解を助けるセミナーを毎月開催しています。参加された皆さんから上がる声は、なぜベトナム人は報連相ができないのか、言われた事しかしないのか、部門を超えて共同できないのかなど、比較的各社に共通するベトナム人材に関する悩みの声です。

 

  • 日本の常識は世界の非常識

日本の常識は世界の非常識とはよく言われるところですが、スポーツ観戦後のゴミ拾いや被災地での配給を待つ人々の整列は世界の称賛を浴びる一方、横断歩道を渡る人もいない赤信号で止まる車に日本は不思議の国とも言われ、日時指定までできる日本の配送システムは行き過ぎとの声が日本国内でも出ているほどです。

日本を離れて10年も経つと、少しずつむしろ日本の特殊性が見えるようになってきます。鉄道が3分遅れで謝罪のアナウンスが流れるのは日本では常識の範疇かも知れませんが、「1日遅れたからといって、一体何の支障があるのか」というのが、まだベトナムの常識です。どちらの物差しが正しいのかは一概には言えませんが、必ずしも世界は日本の物差しを基準に回ってはいないというのは心得ておきたいところです。

 

  • 恥じの文化と罰の文化

日本の文化の特徴を表すに、「日本は恥じの文化、西欧は罰の文化」と評したのは、1944年に「菊と刀」という本を著したアメリカの人類学者、ルース・ベネディクトです。西欧は宗教を基軸に人々が善悪を判断し行動するのに対し、日本人は隣人からさげすまれるかどうかが、行動の基準となるというのが彼女の論評のようです。

日本と西欧の違いを信仰の強弱にゆだねるかは賛否のあるところですが、昨今「忖度」が取りざたされるように、他人が自分をどう思っているのか、他人に迷惑をかけないように、他人を慮ってと、ひと際周りの人を気遣うのは日本人の特徴のようには思います。

弊社でも報連相や職場での意見衝突に際して、相手が何を思っているのか、何を気遣っているのかと問う場面がありますが、不思議なほどベトナム人材は聞き手の期待や感情を理解するのに苦労します。報連相の聞き手が何を期待し、何を知りたいのか、感情を害した相手が何に憤慨しているのか、それがわからないのがベトナム人材の実情であり、また世界の常識なのかも知れません。

 

  • 地政が歴史を作り、歴史が人を作る

日本は縄文・弥生時代に大陸・海洋よりやってきた人たちを主に構成し、以後国内での陣取り合戦は長く続いたものの、四方を海に囲まれたおかげで沖縄や小笠原等を除いて、一度も他国の侵略・支配をうけずに来られた、稀有な国です。それゆえ、安定した隣近所や村・藩といった人間関係において終生を共にする人々への気遣いが自然と成熟した国とも言えます。

一方でベトナムは中国・フランスに従属しながらもチャンパ王国・クメール王国を侵略して南へと領土を拡大していく過程で多様な人々を取り込んできた国です。他国の支配を受け、また移住を続けてきたベトナム人材においては、必然的に血のつながった家族が社会の主要構成単位となり、家族以外の人々とはつかず離れず付き合う人間関係が構成されていきます。

他国を侵略し、様々な人種が交錯し合ったのが地続きの各国の歴史であり、むしろ世界的にはこうした国々に住まう人たちの振る舞いが多数派なのかもしれません。日本が独自の文化や価値観を持つように、ベトナムを含む各国の人たちはそれぞれの地政の影響を受けて、それぞれの歴史を歩み、現在の文化や価値観を育むに至っています。

人材の現地化・自立化は良き日本の文化・価値観を進出先の自社人材に普及する活動です。他人に迷惑をかけないといった価値観は世界共通の価値観ですが、必ずしも日本ほど重きを置いていない国も多々あります。日本の良き文化や価値観の普及に向けて、ベトナムにおいて日本的価値観がどの程度の重要性を持って位置付けられているかを理解し、重要性を高めてもらうよう働きかけていく必要があります。他人がどう感じ、何を思うのかにどれほどの重要性が置かれているのかは、日本を物差しとした比較では、重きを置いていないことは見えてきますが、ベトナム人材が何に重きを置いているのかまでは見えてきません。日本を海に囲まれた世界の小国と客観的に突き放し、ベトナムの地政・歴史を踏まえて、ベトナム・ベトナム人自身を理解しようとすることをお勧めします。